ファクトリーペイントでは工場や倉庫の屋根や外壁塗装を行っています。ご依頼いただく中に昭和世代には懐かしい、灰色の波波の屋根がある工場・倉庫の塗り替え改修があるのですが、あれこそが実は高度経済成長期の、昭和の負の産物、石綿(アスベスト)です。
石綿といえば今年の4月に改正された大気汚染防止法(以下、新法)で解体・改造・修復を行う解体等工事の際の規制が非常に厳しくなったばかり。2023(令和5)年にかけて順次新法が施行されていきます。
新法にはその都度ごとに変更が加わり、事前調査、届出、作業基準などを遵守しなければなりませんが、もしも違反した場合、3〜6月以下の懲役または30〜50万円以下の罰金を課す、厳罰に処されます。そして罰則は受注した塗装業者のみならず、お客様である発注者へも適用される新規則もあり、「知らなかった!」では済まなくなります。
しかし、現実的には周知に温度差もあり、いまだ新法施行が始まったことすら知らない塗装業者も多く、そんなところに改修を任せたら大変なことになります。
詳しくは環境省のウェブサイトをご覧いただくとして、
ここでは工場や倉庫の塗り替え、改修に関わってくる新法と今後の流れをご説明します。
工場や倉庫を所有するオーナー様、管理する責任者の方には必要な知識ですので、ぜひご一読ください。
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石綿(アスベスト)は髪の毛の約1/5000の極細な天然鉱物繊維。熱や摩擦、酸やアルカリにも強く変形しにくい上に安価なことから、“魔法の鉱物”、“奇跡の鉱物”ともてはやされました。高度成長の波に乗り、輸入・生産された石綿の約8割が建材として工場や倉庫、ビルから一般住宅まで、さまざまな建築物に広く使用されました。
しかし、石綿を吸入した人々の悪性中皮腫、肺がんなどが報告され、石綿は健康被害を引き起こす、また死に至ることもある有害物質であることがわかり、2006(平成18)年9月1日以降は石綿の輸入、生産、使用のすべてが禁止となりました。
これまでも建築物の解体、改造、修繕(以下、解体等工事)を行う際は、石綿含有建材の有無の事前調査や都道府県への届出、労働者の安全を確保の上で行うように法令で定められてきましたが、事前調査の方法が法定化されておらず、調査結果の保存義務もなかったことから、石綿があっても届出のないまま工事が進められたり、作業後の石綿の取り残し、不適切な除去なども散見していました。
また2028年をピークに、今後ますます建築物の解体等工事が増加することが予想されているため、国は一層厳しく石綿の排出や飛散の防止が推進せねばならず、2021年4月1日から大気汚染防止法の一部改正に向けた施行を順次進めることにしたのです。
新法での第一のポイントは石綿含有成形板、つまりはあの波波の屋根と外壁などが規制対象建材(特定建築材料)になったところ。
これまでの規制対象は、
・工場のはり、柱などで見られる、吹き付け石綿
・屋根裏や煙突用の石綿含有断熱材、ボイラ本体や配管の保温材、柱やはり、壁の耐火被覆剤
などで、石綿含有成形板は非飛散性とされてきたのです。
しかし、解体時はもちろん、改修する際にも切断や破砕が行われた場合には、当たり前ですが石綿は飛散していたのです。
そして過去50年間で輸入・生産された石綿のうち、建築材料に使用された量は約800万トン。そのうち約9割が石綿含有成形板でした。
振り返って考えてみると恐ろしい話ですが、今ここでようやく石綿含有成形板が規制対象になったわけです。
また石綿は変幻自在。石綿含有成形板には工場や倉庫の屋根材、外壁材のスレートボードのほか、
・石綿含有石こうボード・壁紙
・ビニル床タイルや床シート
などなど、多種多彩。安価なため、天井や壁、床まで、至るところに使用されました。
2006(平成18)年8月31日までに建てられた工場や倉庫は要注意!
「まさにうちの工場だ」、と思われた方もいるのではないでしょうか。
新法の新規則で第二のポイントは、事前調査の法定化です。
これまでも事前調査は行われ、吹き付け石綿や石綿含有の断熱材や保温材、耐火被覆剤があった場合、撤去はもちろん、塗り替え改修、補修などでも都道府県への作業届出が必要でした。
しかし、石綿含有材の撤去費用は高額で特に工場・倉庫などは数百万円に達します。また塗り替え改修においても石綿吸入を防ぐための養生や、石綿建材の湿潤化、作業場内の清掃や粉じんの処理などに手間隙や費用がかかる、という理由で、過去には元請業者(場合によっては発注者も)が石綿含有、もしくは疑いありでも黙認する、というケースがありました。
事前調査の信ぴょう性はなく、元請業者や発注者の良心に頼るところが大きかった、と言えるでしょう。ですが、これでは施工者はもちろん、工事に関わる業者、発注者ばかりか、近隣住民の方々にも健康被害が及んでしまいます。
そこで信頼できる事前調査が行われるように、新規則では調査方法を法定化しました。
と定めました。そして調査方法などの記録の作成と保存(解体等工事終了後3年間)を義務付けました。
さらに事前調査結果は施工者や都道府県等がいつでも確認できるよう、また公衆に見えるように、現場に掲示しなければなりません。
将来、2023(令和5)年10月以降は、
・建築物石綿含有建材調査者
・日本アスベスト調査診断協会の登録者
といった有資格者による事前調査が義務付けられますが、所有、または管理する工場や倉庫が明らかに2006(平成18)年8月31日までの施工であり、石綿含有建材使用の疑いがある場合は、発注者であるお客様も健康被害を重く捉え、この施行を待たずに有資格者、専門業者に調査を依頼すべきです。
現在は事前調査結果の法定化に止まっていますが、第3のポイントとしては来年、2022(令和4)年の4月1日から石綿含有建材のある・なしに関わらず、一定規模以上の建築物、工作物の塗り替え改修の元請業者は事前調査の結果を都道府県に報告することが義務付けられます。
報告の対象は、
つまり、工場や倉庫などの塗り替え改修となると、ほとんどの工事についての事前調査結果を都道府県へ報告する義務が発生することになります。
その数は膨大でスマホやタブレットから報告できる電子システムが整備され、一度の入力で労働基準監督署(厚生労働省)、都道府県(環境省)に報告できるようになります。
そしてこの報告義務違反や虚偽報告をした場合は直接罰が下されます。元請け業者は3ヶ月以下の懲役、または30万円の罰金を支払わなくてはなりません。便利になるのですから、きちんと報告しましょう。
これは余談になるかもしれませんが、今回の改修が屋根や外壁などのスレートボードのみの塗装での改修のみでしたら都道府県への作業実施の届出は不要です。けれども合わせて吹き付け石綿や石綿含有断熱材・保温材・耐火被覆剤が使用されている箇所に触れる改修がある場合は必ず都道府県へお客様である発注者が作業実施の届出を行ってください。
事前調査と報告や、作業実施の届出などを行わなかった場合、それぞれの規則違反で6月以下の懲役や50万円以下の罰金などの厳罰があります。そんな目に遭わないために、正直で誠実な業者を選ぶ、というのも大切なポイントです。
新法で特定建築材料になった屋根や外壁に石綿含有のスレートボードが使用されている時、切断や破砕することなく、そのまま建築物等から取り外すのが鉄則です。
ですが屋根や外壁を交換するとなると多額の費用と長い工期が掛かってしまいます。
そこで弊社では石綿(アスベスト)の飛散防止対策として特殊塗料での封じ込め工法を提案しています。老朽化したスレートに特殊な塗料を直接塗布することでアスベストを含んだ建材を被覆・固着して飛散を防止します。屋根や外壁を交換するより格段に費用を抑えることができ工期も短くできます。
また屋根の耐久性向上、遮熱・断熱にも優れ、美しく清潔感が漂う外観に仕上がります。
私どもの顧客様によれば、「近隣の住民の方々にも、まち並みがきれいになったと評判」とのこと。私たちもうれしい限り。石綿飛散防止に塗り替えによる封じ込め工法という手段があることも覚えておいていただきたいです。
いかがでしたでしょうか。
長くなってしまいましたが、工場や倉庫の塗り替えに関わる新法の施行が開始されたものの、まだまだ新規則が浸透していないというのが現状です。しかし、業者が無知だったり、不誠実な業者に塗装改修を任せると、罰則よりも怖いのが健康被害なのです。
結局のところ、大切なのはやはり「業者選び」になってしまうのですが、最後まで読んでいただいたみなさまが業者を選ぶ際に、この知識が役立ってくれたら幸いです。